★ 運転免許証返納に思う、Kとの想い出……(3) ― 2016年01月26日 12:05

自動車教習所に通ったのは、21歳(1968年)の時である。当時、同じ倶楽部の2年後輩の女性(K)と付き合っていた。二人で免許を取ることにした。大學は、武蔵小金井駅からバスだったので、教習所は東小金井にある尾久自動車教習所にした。私が先に申し込み、最初の教習などを受けて、Kに教えることにした。たまたま、技能教習の初日は、大雪の日。雪の上を走ったが、ブレーキの踏み具合が判らない。ツツツ~とスリップ。こんな日に教習を受けたのが失敗だった。この一日分だけ超過してしまった。
大學でも教習所でも、いつも二人は一緒だった。ある日、「免許取れたら、車買ってくれるって」とKが言った。Kの父親は、大手証券会社の常務だった。実は、Kの両親は、私との付き合いを認めていなかった。父親は、剣道部出身。私は、クラシック・ギター倶楽部。しかも、色白で50キロに満たない痩せっぽちでひ弱な感じの男。大学祭の時に母親と妹に会った。母親が私を見たのは、最初の挨拶の時だけ。あとは全く無視された。嫌われたな。ま、仕方ない。案の定、翌日、Kが悲しそうな表情で言った。「付き合うなって…… いずれ悲しむことになるからって」
話は簡単であった。あのような男は、女ったらしで、飽きたらすぐに捨てるに決まっている。否定できなかった。Kと付き合う前に、2,3人と付き合っており、しかも、同じ倶楽部の一年後輩と付き合っていた最中に、Kを気に入ってしまい、あからさまに乗り換えたのである。彼女は、退部した。母親の言う通りかもしれない。私は、別れることにした。軽薄な男である。中学時代に気になっていた同級生に電話して、代々木駅で待ち合わせる事にした。その日、Kが話があると言う。「別れたくない」 代々木駅に急いだが、既に1時間以上も遅刻した。彼女はいなかった。家に電話した。お兄さんが出た。「今、部屋で泣いています。そっとしておいてくれませんか」 お兄さん夫婦は、理髪店を開いていて、お世話になっていた。私は、何も言えなかった。数年後、恐る恐る店に…… 「縁あって神戸の方に嫁ぎ、幸せに暮らしています」
なにやら教習生たちの間で、私とKは「決まり」と噂されていたらしい。実技は終了。府中の試験が控えていた。一人で試験を受け、合格した。喜んでくれると思っていたのだが、Kに笑顔はなかった。「一緒に、試験を受けて、一緒に合格し、同じ日付の免許証を持ちたかった」 なにも言えなかった。一緒にとの思いはあったが、Kが合格し、私が不合格だったら…… 自信の無い男である。
Kも免許を取った。そして、前進4段コラムシフト、ベンチシートのコルト1000を買ってもらった。Kは、コルトで通学。私は、今まで通りバス、中央線、バスで大學に。帰りは、Kとコルトで、井の頭公園の駐車場に。楽しい毎日が続いた。富士五湖巡り、奥多摩ドライブ…… しかし、二人の交際は、親には内緒。Kは、「誰からも祝福される二人でありたい」と言った。残念ながら素直に受け入れることができた。多分、この頃だと思うが、二人の間に、卒業までは一緒に、との了解が出来上がっていたと思う。私の卒業を控えた3月、お別れ記念ではないが、山陰旅行を計画した。思い起こせば、天橋立、鳥取砂丘、宍道湖、出雲大社、秋吉台などへ…… 鳥取砂丘では、雨風が強く、ほとんどの観光客が引き上げていた。広い砂丘に二人だけ。眼前には荒れ狂う群青色の日本海。ふと、このまま死んでしまってもなどと…… 山陰だけで帰るつもりだったが、瀬戸内海側も旅することにした。姫路城が、印象に残っている。結局、卒業式と先生方への謝恩会には出席できなかった。
卒業するまで…… これは無理だった。入社講習を終え、最初のオフィスは、渋谷にある西野ビルだった。このビルは、西野皓三の西野バレー団(金井克子、由美かおる、奈美悦子など)の活動拠点だった。
社会人一年目の5月の連休、Kと私は、コルトで房総を一周した。初夏の九十九里は素晴らしかった。広い浜辺に車輪の跡が見えた。走ったが、砂に埋もれた。たまたま先生と中学生らしい6,7人がいた。先生は、お腹が大きかった。「この浜を乗り越えた女性はいなかったよね」と笑いながら、車を押してくれた。
Kを職場の人たちにも紹介した。華やかな環境の中、私は、徐々に仕事にのめり込んでいった。Kの誕生日は、9月。吉祥寺の喫茶店で会うことにした。私の頭の中は、楽しい仕事の事で一杯だった。待ち合わせを思い出し、急いで吉祥寺に向かった。約束時間から1時間以上も過ぎていた。「ごめん」 プレゼントも持たない手ぶらの私。Kは、立ち上がり、「さようなら」と言って出て行った。その時、私は、「一緒になれないんだし…… ま、仕方ないな」 一般的に言えば、私はKを振ったことになる。
仕事は順調だし楽しい毎日が続いた。その2年後、付き合っていた女性を大学祭に招きたくなった。Kの事は頭になかった。正門から…… 幾つもの模擬店が並んでいる。正面の模擬店に、なんとKがいた。Kも気が付いた。二人は、軽く会釈した。失礼な男である。上の空で彼女を案内し、武蔵小金井の駅に送り、急いで大學に戻った。模擬店は終了していたが、Kは、同じ場所に立っていた。「戻って来ると思ってた」 二人で、夕暮れのキャンパスを歩き、幾つかの模擬店に入った。Kが言った。「まだ、私たちの事を覚えている人がいるの。私が、卒業するまで、女の人と来ないでほしいの」
Kの車は、日産に変わっていた。「三菱の方が、サービスが良かった」Kの運転で井の頭公園の駐車場に。公園を歩き、吉祥寺の喫茶店に行くことにした。暗い公園を歩きながら、私はKの肩に手をおいた。Kは、そっと手を外して、「もう止めて」と言った。喫茶店では、お互いの近況報告に花が咲いた。しかし、その話の中に、二人の繋がりはなかった。そう、終わっているのである。
駐車場に戻り、車の中で握手した。「ありがとう」 私は、車を降り、Kを見送る事にした。動き出した車が、他の車に接触しそうになった。動揺してるのかな? 走り去る車…… 突然、強烈なる思いが、突き上げてきた。「あっ! 大切なものが!」 Kの家は、玉川上水を200mほど行き、左折したところにある。その間に、信号機はない。走った。曲がり角に着いた。ガラガラッ! ガレージが、閉まる音…… 私には、走り寄り、ドアを叩く勇気も自信もなかった。その時、浮かんだ言葉は、「失恋」だった。Kは、私に振られたと思ったかも知れない。だが、この時、本当に振られたのは、私だと思った。
寝ては夢、起きては現幻の…… この状態は、2年ほど続いた。ある日、Kから結婚したとの葉書が届いた。勇気を出して電話した。ご主人が出た。「大学の先輩です。葉書をいただいたので、おめでとうと言いたくて……」「ありがとうございます」 待ったのだが、Kからの電話はなかった。
長々と…… 運転免許証にまつわる、想い出話でした。
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